月刊自動認識2014年05月号
RFIDを利用した予備品管理システム
月刊自動認識2014年5月号
月刊自動認識2014年5月号
製造工場においては、工場で使用している機械の故障に備えて機械部品の予備品を在庫していることが多い。たくさんある機械のうち1つでも停止すると、それが生産停止など大きな損害につながる可能性もあるため、機械の故障が発生した場合にはすぐに交換または修理する必要がある。このような保全作業を効率的に行うためには予備品の管理を正しく行うことが重要である。 しかし予備品は本来の生産業務に必要なものではないのでその管理用のシステムを予算として計上することは難しく、どうしても安易で手軽な台帳などを利用した管理方法になってしまう。ストックされている予備品のうち何を使用したのかを台帳に記録しておき、ストックが少なくなったものに関しては発注をかけておくような運用である。この運用にも問題がある。予備品が必要なときは通常急いでおり、すぐにでも予備品を運ばなくてはならないために台帳記入を後回しにし、結局忘れてしまうケースが多く発生してしまう。そうすると発注のタイミングを逃してしまい、いざ使用したいときに実はストックが無かったというような事になりかねない。 このような問題を解消するためにRFIDを利用した管理システムについてご紹介したい。
正しい予備品管理の難しさ
予備品が正しく管理されていない場合の問題点としては先に挙げたように予備品が無いことによる機械の休止損失、余剰に在庫することによる在庫維持費の増加などがある。
正しく管理するためには以下のようなことが必要となる。
予備品のロケーション管理 |
|
---|---|
必要なときにすぐに取り出せるように、予備品がどこにあるのかを正確に把握することが必要となる。特に大型の予備品の場合、工場内を探して回ることになる。箱に入っていたり、シートに覆われていたりする場合は作業量が多くなり、時間もかかる。 |
|
在庫数の把握 |
|
予備品が足りなくなりそうなときに発注ができるように、在庫数の把握を正確に行う必要がある。 |
|
使用頻度や量の把握 |
|
1回の発注数を適正なものにするため、どの予備品がどの程度の使用頻度でどのくらい使用されているのかを把握する必要がある。
これらの管理をきちんと行うことは非常に難しい。台帳などでは先に述べたように必ず漏れが発生してしまうし、使用頻度などの集計も面倒だ。そこで予備品がいつ保管され、いつ使用されたかなどをなるべく自動でデータ収集するシステムが望ましい。 |
|
全体量の把握 |
|
工場が複数の拠点に存在する場合、通常はそれぞれの拠点ごとに管理することになるが、例えば大型の予備品などは特注品であるものがほとんどであり、高価なものが多い。それらを各拠点ごとに準備しておくのはコスト的に問題があるため、どの工場にどれくらいあるのかを他の工場からも確認できる必要がある。 |
RFIDを利用することの利点
RFIDを予備品管理に利用することによって、以下のような利点がある。
予備品の探索 |
|
---|---|
大型の予備品の場合、箱に入っていたりシートで覆われていたりしていていちいち開けないと中身が確認できない場合も多い。予備品にRFタグを取付け、高出力のハンディリーダ(写真1)を利用することにより箱やシートを開けなくても中身の確認ができるので、見つけるまでの時間短縮ができる(図1)。
また工場で使用する予備品に関しては汚れやすい環境にあることが多く、バーコードでは汚れによって認識できないこともある。RFタグであれば汚れていても読めることも重要な利点だ。
|
|
写真1 ATID製UHF帯ハンディリーダライタ |
|
図1 |
|
自動データ収集 |
|
ハンディリーダで読み取りをする場合、場所の情報を紐付けることができれば何がいつどこにあったのかをデータとして残すことができる。
|
システムの概要
今回ご紹介するシステムの概要は以下の通り。
RFタグの登録 |
|
---|---|
予備品に取り付けるRFタグをシステムに登録する。登録は専用のPCで行う。登録の内容は、どこの工場にあるのか、仕様やメーカー、型番など検索しやすい項目とした。 |
|
予備品の探索 |
|
大型の予備品は高出力のハンディリーダで探索できる。あらかじめ探したい予備品のデータをハンディに入力すると、ハンディリーダを探知機のように利用でき、目的の予備品の近くにくると音で知ることができる。また予備品が箱に入っていたとしても金属の箱でなければ電波を通すので探索が可能だ。 |
|
予備品の入庫 |
|
登録したRFタグを予備品に取り付け、保管場所に持っていく。保管場所に置いた後でハンディリーダで読み取ると、どこに保管されたのかが記録される。 |
|
予備品の出庫 |
|
予備品が必要になった場合、まずシステムで検索をかける。他の工場にある場合もあり、そのときはそちらの工場に出庫指示が出される。 |
|
予備品の発注 |
|
ストック数があらかじめ決められた数量を下回った状態で一定の期間が過ぎた場合に発注依頼のメールが送信される。予備品は持ち出されたあと、必要なかった、物が違ったなどの理由で再び保管場所に戻されることがあるため、決められた数量を下回った瞬間に発注指示が出るような仕組みにはしていない。 |
|
担当者の管理 |
|
担当者にはRFタグの付いたカードを配布しており、ハンディリーダを操作する際は必ずカードを読み取って担当者を設定する必要があるようにした。こうすることで誰がどの予備品をいつどこに動かしたのかなどの情報を得ることができる。 |
問題点の克服
今回対象となった予備品は大型で、基本的にフォークリフトで運ぶようなものが多かった。そのため、RFタグに対してある程度の衝撃にも耐えられる必要があった。また、できるだけ簡単に取り付け、取り外しができるようにする必要もあったため、使用するRFタグはチューブで加工され、強力なマグネットが付けられたものを作成した(写真2)。これにより取り付け、取り外しが簡単で、フォークリフトで踏んでも壊れない丈夫さを持ちながら素材としては柔らかい非常に扱いやすいRFタグとすることができた。
写真2 使用したRFタグ |
効果
すぐに効果が見られたのが大型の予備品の探索時間の短縮である。大型の予備品には強力なマグネット付きのRFタグを取り付けており、高出力ハンディリーダを利用して5m先から判別することができる。また木製の箱に入っていたり、シートで覆われていたりしてもわざわざ開梱する必要はなく、外から検知することが可能なので目的の予備品を探す手間は大幅に削減することがができた。
おわりに
本システムでは長距離の読取が可能なUHF帯のRFIDの特徴を生かしたシステムとなっている。特に探索においては、離れた場所や箱の中など見えないところからでも目的の物を探索することが可能となっている。 UHF帯のRFIDは長距離の読取が可能なため、様々なシステムに簡便に利用されるイメージがあるが、実際は様々な工夫、運用のサポートが必要となることがほとんどだ。これらが実を結びうまく導入ができれば使い勝手のよいとても便利なシステムとなり、導入効果を上げることができる。今後もこれらのノウハウを生か、UHF帯のRFIDの普及に尽力して参りたい。