RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

製品情報

RFIDを使用して正確な位置情報を取得するシステム
時空を超えるナビゲーション「時空ナビ」

月刊自動認識2010年5月号

月刊自動認識2010年5月号
月刊自動認識2010年5月号

財団法人日本地図センターは、国土地理院の地形図の提供を中心に地理空間情報の調査・収集・提供・普及・活用を行っており、地図関連の展示会で地図データの提供等を行っている。 これらの活動の一環として、昨年12月に日本大学文理学部で行われた学術展示では、明治はじめから現代までの7時代の東京とその近郊の地図と航空写真を連動させた展示システム「時空ナビ」(仮称)を開発した。 この展示の企画段階に、インタラクティブな要素を加えることで来場者の方に喜んでいただけないだろうかとの構想があった。 ここでの主要展示物は10m四方の大きな各時代毎の地図や航空写真を床面に貼り、来場者は自由にその上を歩きながら地図を観覧する床面 地図である。 来場者に携帯表示端末を貸出し、床面地図の上を歩いたときにその場所の違う時代の地図が来場者が持つ端末に表示される仕組みができないかとの発想があった。 これが時空ナビ開発のはじまりとなっ た。

実現案の検討

来場者が所持する表示端末に来場者が居る場所の地図を表示させるためには、来場者の位置を正確に識別する必要がある。 今回床面に敷かれる地図は2500分の1の縮尺であり、1m移動すると地図上では2.5kmの移動になるため、できるだけ精度の高い識別が要求される。 位置を把握する技術としては、無線LANのアクセスポイントを利用したものなどが存在するが、状況によって数mの誤差がでてしまうために実現は難しいと考えられた。 そこで、RFIDを利用して実現ができないか検討を行った。 RFIDではRFタグが見えない状況でも読取ることができ、RFタグを個別に認識できる。 このため単純に地図の下にRFタグを敷き詰め、それを着実に読取ることができれば実現できると考えられた。 さらに各種技術的な検討を行った結果、次の3種類の案を検討することとなった。

第1案 UHF帯RFタグ+高出力リーダ案

RFタグを地図の下に敷き詰めた場合、どのようにしてそのRFタグを読取るのかが問題となる。 HF帯のRFタグでは近接して読取る必要があるため、UHF帯のRFタ グを使用し、表示機能のついた高出力のリーダを使用 するのがこの案である。 複数のRFタグが一度に読取られるが、読取られたRFタグを解析することでどのポイントに向けられて読取られたのかを判別する。 この案の課題は、リーダが大きく高価であることである。

第2案 HF帯RFタグ+杖型リーダ案

据置型は電波の出力が強いので予想外のICタグを読込んでしまうことがあるが、ハンディリーダは出力を抑え、読みたいと思うICタグを読むことができるので、予想外のICタグを読む可能性が低くなる。

第3案 UHF帯RFタグ+スリッパ型小型リーダ案

来場者がストレスなく展示を楽しむためには、なるべく携帯する端末を少なくすることが必要である。 地図を表示させるための端末は必要なので、どのようにしてRFIDのリーダを所持する負担を減らすかが求められる。 そこで来場者にRFIDリーダが搭載されたスリッパを履いていただき、手に所持するのは表示端末のみとしたのがこの案である。 この案の課題はRFIDリーダを搭載したスリッパの開発費用がかかることである。

これらの案を検討した結果、コストおよび開発期間から、第2案の杖型リーダ案に決定した。

機材の選定

実現方法が決定したことで、RFタグ、読取リーダ、携帯表示端末の選定を行った。 機材の選定にあたっては、システムの使い心地が一番重要な検討要素となる。
来場者は杖型リーダと携帯表示端末を持ち、杖型リーダで床上の気になる地点を指す。 すると携帯表示端末にその場所の情報がストレスなく表示されなければならない。 このことから、RFタグの読取ができること、場所の特定がなるべくピンポイントで可能であることが必要となる。 そのためにはRFタグをできるだけ狭い間隔で敷き詰める必要があるが、膨大な数のRFタグが必要となってしまう。 さらにRFタグへ地図情報の登録を行わなければならないため、そのための作業量も膨大なものとなってしまう。 RFタグの量を最低限にするため、使用者へのストレスがない程度にRFタグを配置する必要があった。 RFIDリーダは既存品があればよいが、今回の要求に合致する製品は存在しないため製作する必要がある。 しかしコストを抑えるため、既存品に外装を施して杖型のリーダを作成することとした。 製作は非接触テクノロジー社が行った。
携帯表示端末については当然ながらできるだけ大きく表示される(画面が大きい)方がよいが、できるだけ軽い方がよいという矛盾した要求となる。 そのため、携帯表示端末は来場者が選択できるように3種類のものを準備することとした。 表示領域が10インチ以上のネットブックPC、5インチ程度のモバイルPC、iPhoneの3種類から選択できるようにした。 特にiPhone端末は電子コンパスを搭載しているため、床に展示してある地図と常に同じ方向の地図を表示することが可能となり、インタラクティブ性も向上する。

アプリケーション

システムを実現させるためには、RFIDリーダを制御しRFタグの読取を行う部分、表示端末に地図を表示する部分のアプリケーションが必要となる。 地図の表示には国土地理院から技術情報が公開されている電子国土を利用することとした。 電子国土を利用すればGoogle Mapのような機能性の高い地図表示を行うことができ、それぞれの時代の地図データを用意することで各時代の地図を簡単に表示することが可能となり、 RFIDリーダ制御部分などの開発のみで実現することができた。

展示概要

写真1
写真1 時空ナビの展示

時空ナビの展示は下記学術展の一部として展示が行われた(写真1)。

日本大学文理学部学術展

「3大ジョイント展示」
 江戸・東京発達史-その変遷と災害-
 日中戦争写真展 -中国人民日報社提供 本邦初公開-
 ノモンハン事件展
 熊猫(パンダ)展 -中国四川省から-

・開催期間 2009(平成21)年12月5日(土)~24日(木)
・開催場所 日本大学文理学部「百周年記念館」
・主  催:日本大学文理学部
・協  力:(財)日本地図センター・人民日報日本支社
・後  援:国土交通省国土地理院・世田谷区・
      世田谷区教育委員会・中国大使館文化部・
      人民日報社・共同通信社・読売新聞社・
      日本国際地図学会(順不同)

 展示会場には下記8種類の地図が床面に広げられた。
1つの地図が12m×11mの大きさである。

(1) 明治前期:第一軍管区地方迅速測図原図 1880年代測図
(2) 明治後期:1万分の1地形図 1908~09年測量
(3) 大正期(関東大地震直前):陸地測量部1万分の1地形図 1921年二修
(4) 昭和戦前期:陸地測量部1万分の1地形図 1936年修正
(5) 戦災と復興:戦災復興院5千分の1地図
(6) 昭和戦後期:地理調査所1万分の1地形図 1950年代修正
(7) 現在:東京都地形図 2003年
(8) 現在:正規化空中写真 2007年

 

この中で、(1)の地図の下に1万1千枚のRFタグを敷き詰め時空ナビとして活用した(写真2)。
来場者には杖型RFIDリーダ(図1)と携帯表示端末が貸出しされる。
来場者が気になるポイントを杖型リーダで指す(写真3)と、そのポイントの地図が携帯表示端末に表示される(写真4)。
携帯表示端末に表示される地図で は簡単な操作で異なる時代の地図への切替や、拡大・縮小が可能になっている(写真5)。
また iPhone端末では電子コンパスを利用し、床の地図と常に同じ方位で地図が表示されるような仕組みになっている(写真6)。
展示会の様子は下記サイトで動画で公開している。
https://www.hayato.info/home/jirei_jiku.htm
(写真7、写真8、図2)

写真2 敷き詰められたRFタグ
写真2 敷き詰められたRFタグ
図1 杖型RFIDリーダ
図1 杖型RFIDリーダ
非接触テクノロジー社提供
写真6 iPhone端末で床の地図と同じ方位で地図が表示される
写真6 iPhone端末で床の地図と同じ方位で地図が表示される
写真7 展示会の様子1
写真7 展示会の様子1
写真8 展示会の様子2
写真8 展示会の様子2
図2 システム概要図
図2 システム概要図

おわりに

当初はこの時空ナビシステムは日本大学での学術展でのみ使用する予定であったが、展示により来場者に大変好評をいただき大きな反響があった。 このため、今後このシステムをレンタルという形で提供・公開できるように準備を進めている。 実際2010年度に数箇所での展示が検討されており、展示される機会が増えることが期待される。 もし時空ナビに触れる機会があれば是非体感していただきたい。