RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

製品情報

NFCで始める実践RFID
第109回:子ども向けRFID製品が切り開く未来

はじめに

月刊自動認識2021年11月号
月刊自動認識2021年11月号

前回、前々回と、GIGAスクール構想と絡めたRFIDの活用についての議論を行った。実際には、GIGAスクール端末をICタグの取付対象として考えたときに、どのようなユースケースが発生しうるかという観点を中心に、学校での貸出管理や持ち帰った家庭内での探索支援など実利的なシナリオを検証した。子どもたちはもちろん、教員/学校のスタッフ、保護者まで、確実にメリットを感じられることは間違いないのだが、その先にあるRFIDの普及プロセスについて今回は議論を進めていきたい。

UHF帯RFIDを活用したホビー商品が切り開く未来

本稿を記述しているタイミングで、第23回自動認識総合展が開催された。昨年はコロナ禍の影響により中止となったため、2年ぶりの開催であったが、緊急事態宣言が終了した直後にも関わらず、業界関係者に限らずRFIDの導入に関心を持つ多くの参加者が訪れた。基本的にはBtoBの領域で価値を発揮するソリューションが中心に置かれているイベントかと思うが、弊社ブースで正面に据えたのは図1のドラゴンを模したブロックの「おもちゃ」である。結果として、多くの来場者が「おもちゃ」に目を惹かれ、その利用方法や存在意義の説明を受けると大いに共感を得られることが多かった。背景や経緯をふくめ、この事象の説明を通じてRFIDの普及プロセスに言及していきたい。

ICタグを内蔵したブロックにより組み立てられたオブジェ
図1:ICタグを内蔵したブロックにより組み立てられたオブジェ

まず、この「おもちゃ」自体の説明を行う必要があるだろう。見た目の通り、この「おもちゃ」は多数のブロックを組み立てられたものであるのだが、実はこのブロック、1個ずつにUHF帯のICタグが埋め込まれている。ICタグ付きのブロックを利用して、子どもたちが思い思いにロボットや生き物、あるいは乗り物など様々なオブジェクトを自由に組み立てることができるのだが、果たしてICタグはどのように活躍するのだろうか。実は本製品、図2のようなパッケージにて実際にコンシューマ向けに販売されているもので、製品名は「PLOCO」となっている。UHF帯のICタグが埋め込まれた専用のブロックと、UHF帯の小型RFIDリーダーがバンドルされた本製品は、おそらくコンシューマー向け製品でUHF帯ICタグを活用したものとしては世界初なのではないだろうか。

PLOCOのパッケージ
図2:PLOCOのパッケージ

使い方としては、最初にスマートフォンにPLOCO用のアプリをインストールしておく、現在はBattlerというアプリが利用可能となっているが、今後PLOCO対応のアプリが増えていくとのことである。Battlerは組み上げたブロックで戦う対戦ゲームとなっているが、1人でコンピュータと対戦するモードや、友達と対戦するモードなどが用意されている。ゲームモードを選択してから、まずはブロックを組み上げる。出来上がったブロックを、RFIDリーダーでスキャンすると使用しているブロックの種類や組み立て方に基づいて、スコアが算定される。このスコアに基づいてコンピュータや友達の組み上げたブロックと対戦するのが基本的な遊び方となっている。

当然のことながら無味簡素なRFIDの業務用アプリケーションとは異なり、子どもたちを魅了するサウンドエフェクトやアニメーションなどが最大限に活用されている、まさにエンターテイメントRFIDといったスタイルである。ある程度ランダム性も考慮されており、何度でも楽しく遊べるところも良く出来ている。当初はアメリカから販売開始され、現在は国内でも通販をメインに実際に購入することができる。売れ行きについては弊社の知るところではないが、世界に先駆けたチャレンジングな取り組みには多くな拍手を贈りたいし、この製品がRFID技術を社会に浸透させるのに大きな役割を果たす可能性について期待せざるを得ない。

以前より取り上げているとおり、公民問わず事業活動における様々なユースケースを一般化していくためには、家庭や学校など生活者の利便性向上のために、セルフサービス型で利用実績を積み上げていくことが近道になると考えている。個人として使ったことのあるツール、その課題解決効果を実感しているツールであれば、所属している法人組織における活用に前向きになる可能性が高い。組織人として以前に、一個人、生活者としてRFIDの理解し、活用実績を積み上げていくために足りないものは何か。

答えはそれほど難しいものではなく、頭の柔らかいうちに実際にツールを手にする機会を増やすことではないだろうか。古くはNFCワークショップで、NDEFエンコードによりWebへのショートカットツールとしてのNFCタグを手に入れた子どもたちは、お気に入りのYoutubeへワンタッチで移動できるオリジナルアクセサリや、夏休みの自由研究において写真集から動画へのリンクを生成するなどのアイデアを自ら考案し形にしてきた。UHF帯のICタグについても、教科書やランドセルと組み合わせた忘れ物チェックの仕組みや、部活動の道具の持ち出し管理など、多くを助言せずとも自らユースケースを編みだすことができている。十分な機会さえあれば、子供の頃から課題解決の1つの手法として、常にICタグの活用を選択肢に入れておく、というのは決して難しい話ではないはずだ。そうやって育った子どもであれば、大人になってから業務上の課題解決にICタグを使用するのは何の抵抗もないどころか、当たり前の選択になるのではないだろうか。

となると、如何にして早期にツールを手にする機会を提供できるか、というところが焦点になってくる。GIGAスクール端末のようにバラ撒くことができれば手っ取り早いが、さすがに現実味がないし、バラ撒かれたとしてRFIDリーダーだけ押し付けられてもその面白さを演出できなければ、子どもたちにのめり込む機会を提供できないかもしれない。

もはや説明は不要かもしれないが、自然な形で、かつ面白さ/楽しさを伴う形で機会を提供できるツールとして、PLOCOは正に最適なものと言えるのではないだろうか。自ら組み立てたブロックをスキャンしてスコアが計算される驚きから、種類や形状により変動するスコアからブロックの自動認識という概念に触れることができる。同梱されたRFIDリーダーに対応したゲーム以外のアプリ(たとえば弊社のMANICAモバイル)も存在しているために、モノ探しや持ち出し管理などはプログラミングすら行うことなく、活用することができるようになっている。

また、PLOCOを家庭で購入する以外に、学校単位などで導入する動きが進んでいけば、小学校のプログラミング教育とのリンクも考えられるのではないだろうか。自分たちで作成するアプリで、たとえば図書室の図書管理の仕組みを実装したりなど、独自のアイデアで様々なユースケースが広がっていくことが予想される。このような動きが進むことで、「課題解決の1つの手段としてのICタグ」を小さいうちからインストールすることが、社会的なRFID/ICタグの普及を加速することは間違いないはずである。

おわりに

今回は、子ども向けのICタグ内蔵おもちゃの登場が、どのように社会的なRFIDの導入を推進していくかについての議論を行った。紹介されたPLOCOについてご興味をお持ちいただけ方は、是非商品紹介サイトもご覧頂きたい(https://ploco.io/)。RFIDが唯一の解決策とはならないことが言うまでもないが、わかりやすく実装しやすい自動認識技術として、子どものうちから触れておくことの価値は、RFID業界を隆盛させることと関係なく社会的に意義のあることだと信じている。次回も更なるユースケースの開発を進めていく予定である。