RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

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NFCで始める実践RFID
第90回:ウェアラブルRFIDリーダーを活用した機能拡張②

はじめに

月刊自動認識2020年4月号
月刊自動認識2020年4月号

前回は、RFIDを活用した所在検知の仕組みを考える際に、従前の主流的な手法であった場所に対して定置式リーダーを設置して、管理対象に対してICタグを携行させるパターンとの比較において、場所に対してICタグを貼付して、管理対象がウェアラブルRFIDリーダーを携行する方式の優位性について議論した。ケースバイケースではあるが、より細かい粒度での所在管理を比較的安価に実現できる可能性についてご理解いただけたのではないかと考えている。今回は、ウェアラブルRFIDリーダーの更なる用途開発について議論を進めていきたい。

棚入れ/棚移動作業におけるRFIDの活用

入庫時や倉庫間移動の際に、どの棚に、どのアイテムを格納したかを記録する業務の省力化のためにRFIDを活用するのは、ごく一般的である。アイテムに貼付されたICタグを、棚入れの際に、棚に貼っておいたロケーション識別用のICタグ、いわゆる場所タグとを合わせ読むことにより、自動的にモノの情報と場所の情報が紐づけられるようなイメージである。場所タグをスキャンすることにより取得される「この場所に」という情報と、アイテムのタグをスキャンすることにより取得される「どのアイテムが何個」という情報を一瞬で紐づけられるのは非常に効率がよい。通常はハンディタイプのリーダーが採用されるが、ハンディリーダーでの読み取りも、アイテムのタグと場所タグを2回よむのではなく、棚上のアイテムタグと、場所タグが1回のスキャンで同時に読めてしまうぐらいの位置関係になることが多く、スムーズかつストレスフリーな場所の登録が可能となる。

RFIDを使用しない方法に比べれば圧倒的に便利な手法であることに間違いないが、やはりハンディリーダーによる入庫登録作業を好まないユーザは多い。まっさきに出てくるその理由は、入庫の際はまだしも、何らかの事情により発生する棚移動の業務の際に、常にハンディリーダーを携行する必要があることだろうか。すべての作業員が常時ハンディリーダーを持ち歩くのではコストも嵩むし、本来業務と関係ない作業動線のために、わざわざ専用のデバイスを携行するのは、やはり面倒なイメージが伴う。これはつまり、アイテムを移動する作業動線とは切り離された形でハンディリーダーによるスキャンという作業を行わざるを得ない点に問題があると思われる。

ハンディリーダーによるスキャンを必要とせずに棚上のアイテム情報をアップデートする手法としては、従来は棚アンテナ、シートアンテナなどを利用するしかなかったのではないか。移動のたびにスキャンするのではなく、そもそも棚自体がアンテナになっていれば、手動での登録作業は必要なくなることは言うまでもない。どの棚に、どのアイテムが存在しているかをリアルタイムで監視できるこの手法についても、特段あたらしい技術というわけではなく、割と昔から存在している。これも理想的な方式に思えるが、やはりネックになってくるのはコストである。棚アンテナ/シートアンテナ自体の単価の問題もあるが、倉庫内のすべての棚にアンテナを仕込んだ場合、何よりその数量が膨大になることは間違いない。ただでさえ高価なアンテナを大量に実装するとなると、未だに多くのケースでは見積が天文学的な金額となってしまい、投資対効果的に非現実的な選択となってしまうことが多い。わざわざスキャンすることなく、かつコストを抑えられる。そのような手法は存在していないのだろうか。ここでようやく、ウェアラブルリーダーに話を戻したい。

棚入れ/棚移動作業におけるウェアラブルリーダーの活用

ウェアラブルリーダーの全ての機種を網羅できているわけではないが、そもそもウェアラブルリーダーの読取範囲はどのようなものであるか。たとえば図1のようなウェアラブルリーダーは、どこから電波を出すか。スマートウォッチと間違われそうな筐体であるが、実際には何も表示されず、その部分から電波がでていく。表示部(と言いながら何も表示されないが)から放出された電波は、少し横へ広がりながら飛んでいく。組み合わせるICタグの大きさにもよるが、通信距離は50cm程度が目安となりそうである。

システム導入前
図1:ウェアラブルリーダー

通常は表示部から正面に電波が飛んでいくが、これを腕につけると面白いことがおきる。手首につけたリーダーからの電波が人体を通じて広がり、たとえば自分の指をアンテナとして活用できるようになる。この特性により、ウェアラブルリーダーを装着したまま、何らかのアイテムを手に取ると、その瞬間に何をつかんだかを自動認識できるようになる。もちろんアイテムにはICタグが貼付されている必要があるが、アイテムを手に持った瞬間に、アンテナと化した手が、アイテムのICタグを読み取ることで、このような現象が発生していると思われる。この手法であれば、わざわざハンディリーダーを操作することなく、今つかんだアイテムの名称を自動取得できるというわけだ。

システム導入前
図2:ウェアラブルリーダーを装着してアイテムを手に持つ

たとえば、図2はICタグが貼付されたキングファイルを手に持っている様子である、もちろん手首にはウェアラブルリーダーが装着されている。この状態で管理画面上には、何を手に持っているかが表示されている。

これで「何を」という情報が自動で取得されることを確認できたが、「どこへ」棚入れを行ったかについても自動で取得したいところだが、ここでは場所タグを利用する。動画の中でご確認いただきたいが、キングファイルを手に掴んで棚入れする際に、棚に貼付されたICタグを読み取って移動先を自動的に取得することが出来ている。棚入れ、棚移動ともに、アイテムを手に持って運ぶだけで自動的に実績が記録される。本来の作業動線(=モノを移動させる)の中で、自動的に「何をどこへ」という情報を取得して記録できているため、現場作業者に何ら追加的な作業を行わせる必要が無いことがご理解いただけたのではないだろうか。棚入れや移動登録の際に、ハンディリーダーを取り出して別のアクションを行う必要が無いのであれば、やはりそちらのほうが利便性が高いことは間違いない。

あとはコストであるが、棚卸などに利用する高出力のハンディリーダーに比較すると、小型で低出力なウェアラブルリーダーの価格は比較的リーズナブルになることが予想される。現行ラインナップでは、ハンディリーダーに比べて若干安い程度であるが、動画中に登場する中国製のリーダーは現地では驚くほど安い価格で提供されている。日本で使えるようになった時の価格は未確認だが、全体としてはどんどん低価格方向にシフトしていくはずであり、今後に期待が持てる。。

おわりに

今回はウェアラブルリーダーを活用して人体をアンテナ化、それにより本来の作業動線の中で自動的にデータの取得ができる手法について解説を行った。やはりRFID/NFCの世界はアイデア次第で、まだまだ用途が広がっていく可能性にあふれている。次回も実践的な事例の開拓を進めていく予定である。