RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

製品情報

NFCで始める実践RFID
第89回:ウェアラブルRFIDリーダーを活用した機能拡張①

はじめに

月刊自動認識2020年3月号
月刊自動認識2020年3月号

前回までは、身近なRFID/NFC活用事例の観察対象を国内から海外に広げる方向で進めてきた。似たような使い方でも、導入のモチベーションや文化的な背景の差異を確認することが出来るあたり、個人的には非常に興味深いのだが、台湾、香港に続いて、そのほかのエリアについても順次進めていきたい次第である。さて今回は趣を変えて、最近実践することが多くなってきたウェアブルRFIDリーダーに関する話題をお届けしたい。

ウェアラブルRFIDリーダーの定義

まだ決して世の中において一般的とは言えないでデバイスであろう「ウェアラブルRFIDリーダー」という単語を耳にしたときに、皆様が頭の中に思い浮かべるイメージはどのようなものだろうか。ここでは、いわゆる表示画面を持たないRFIDリーダーで、手首に装着できるほど小型の製品群を指し示すものとしたい(図①、図②)。

図1:ウェアラブリRFIDリーダー①
図1:ウェアラブリRFIDリーダー①
図2:ウェアラブルRFIDリーダー②
図2:ウェアラブルRFIDリーダー②

バッテリー駆動で電源不要、読み取ったタグのIDをBluetoothで上位デバイス(スマートフォンやPC)にリアルタイムに通知する、といったあたりが共通の仕様となるが、このタイプの製品は数年前からリリースされているものの、昨今ようやく導入事例が徐々に増えてきて、市民権を得つつある段階といえるのではないだろうか。

エンドユーザがUHF帯RFIDリーダーに求める性能要件において、分かりやすいのは優れた読取精度、という指標である。読取精度にも色々あるが、たとえば出来るだけ離れたところから大量のICタグを、どれだけ早く読むか。しかも、できるだけ読み落としが無い状態で、というあたりがわかりやすい指標になるだろうか。ウェアラブルRFIDリーダーは、そのサイズゆえに決して強力な読取性能を指向するものにはなっていない。

タッチしないと読めない、というほどではないし、アンチコリジョン対応なので複数のタグを同時に識別する機能も有しているが、やはり派手な読取性能を持つものではない。タグとの組み合わせにもよるが、数cmから数十cmあたりが通信距離の限界となる。高出力の強力なリーダーに比べると見劣りしてしまうことは否めないし、そういう用途であればUHFではなくNFCを利用すれば良いのでは、という声も聞こえてきそうな領域である。それでもあえて、ウェアラブルRFIDリーダーに注目するのは何故だろうか。

所在管理における定置式リーダーの活用の問題点

数か所の現場で実験を行い、既にそれなりの評価を得られているのが、現場作業員の所在管理におけるウェアラブルRFIDリーダーの活用というアイデアである。これまでの、工場における作業員の所在管理というアプリケーションのセオリーとしては、作業員にUHF帯のICタグを装着させて、管理したいエリアに対してアンテナを取り付ける。どの場所のアンテナで、どの作業員のタグを読み込んだかを一元管理することにより、「今、誰が、どこにいるか」という所在管理情報のリアルタイムな取得を行う方式が主流であったのではないだろうか。

もちろん、この方式であっても作業員の所在管理という要件を満たすことは出来るのだが、もし管理対象が作業員だった場合、投資対効果としては微妙な選択肢となってしまうことが多いのではないだろうか。定置式アンテナおよびリーダー自体のコストが管理したいエリアの数だけ必要となることはもとより、電源やN/Wの敷設を含めて設置コストが非常に悩ましい。そのため、工場にアンテナをばら撒く方式の場合、工程ごとに仕掛品のボリューム感を管理したり、材料ふくめ在庫管理の省力化とセットで行うことが多い。在庫管理目的で設置した定置式アンテナの、その副次的な効果を狙う活用方法として、作業員の所在管理まで展開させることが多いという印象を持っている。

とくに最近の工場では自動化がすすみ、作業員の数はそれほど大量というわけではない場合も多く、かような少人数の作業員の所在管理に対して、定置式リーダーをばら撒く従来の方式は、何か別のアプリケーションと抱き合わせでないと投資対効果を出しにくいケースが多いのが実情ではないだろうか。トライアルフェーズにおいて何とか導入を進めたとしても、工場を稼働させる際に避けられない定期的なレイアウト変更などにより発生する、アンテナの場所変更に伴う工事費用が問題となる、本格的な導入には至らないケースも決して稀有とはいえない状況である。

ウェアラブルRFIDリーダーを活用した所在管理の手法

作業実績の登録だったり、生産性モニタリングだったり、あるいは災害発生時の退避確認など、工場現場における人タグのニーズは決して少ないわけではないのだが、従来のアプローチではトータルコストがかかり過ぎるというの問題がある。これらの諸問題を軽やかに乗り越えて、更なる価値を提供することができるデバイスとしての期待をこめて、ウェアラブルRFIDリーダーの活用方法へ話を進めていきたい。

ウェアラブルRFIDリーダーというと、スマートウォッチさながら、手首に装着するイメージが強いかもしれない。もちろんそのような装着方法でも問題ないが、要するに身に着けられるほど小型なリーダーという定義なので、必ずしも手首に固執する必要は無い。むしろ、工場作業員の業務を考えた場合は邪魔になるケースのほうが多い。所在管理のために使用する小型リーダーの装着位置として数か所の現場での実験から、たとえば腰のベルトへの装着が有力視されている。あるいはズボンのポケットでも良いのだが、腰の高さにリーダーが取り付けられるようにベルトで止める、ポケットにクリップで止めるなどの方法で装着を行うと、作業者はリーダーを身に着けていることすら意識させることがない。

腰に付けたリーダーで、いったい何のタグを読むか。もちろん台車のうえに大量に搭載されている段ボールなど管理対象のアイテムに添付された所謂、モノタグではなく、工作機械や作業台、あるいは搬送する台車などに取り付けられた所謂、場所タグがスキャンの対象となる。たとえば、ある工作機械には、ちょうど腰のあたりにICタグが貼られている。ウェアラブルRFIDリーダーを腰に装着した作業員が近づくと、自動的に工作機械のICタグを読み取る。このシンプルな仕組みにより、どの作業員が、いつ、どの工作機械に接触したか、という実績を収集することができる。この仕組みを各作業員/各工作機械に対して実装することにより、工場全体で、いつ、どの作業員が、どの工作機械に近づいたか(=工場内のどこに存在していたか)を自動的に収集することができるようになる。

追加で別の工作機械のエリアも管理対象にしたい場合、安価なパッシブのシールタグを貼り足せばよいだけだ。工作機械の操作部や表示パネルなど、使用する際に必ず近づく箇所にシールタグを貼り足すだけなので、定置式のアンテナを活用する方式と異なり、驚くほど安価に管理エリアを追加することができる。

もちろん、読取性能の貧弱なウェアラブルRFIDリーダーでは読み落としに対する考慮を行う必要がある。工作機械のICタグと、作業者のリーダーとの位置関係によっては、近づいても読み落とすことがあるかもしれない。しかし、そんなときは当該の工作機械に対して、もう一枚、ICタグを追加で貼り足せばよい。何なら邪魔にならない範囲で、ペタペタとタグだらけにしてしまえばよい。技術的に何ら特殊な仕組みではなく、単純にアイデア/ちょっとした工夫により、工場内作業員の所在把握という管理要件を今までもよりも安価かつ柔軟に対応することが可能になるのがお分かりいただけたのではないだろうか。

おわりに

管理対象そのものにICタグを貼付するアプローチ以外に、保管場所の自動登録などで場所タグを活用するアイデアは以前にも取り上げている。今回は、その場所タグとウェアラブルRFIDリーダーを組み合わせることで、RFIDの活用エリアを更に拡大することが出来る可能性について紹介を行ったわけだが、次回も、このテーマにおける事例の紹介をさせていただく予定である。