RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

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NFCで始める実践RFID
第88回:旅先で見かけるICタグ(香港編)

はじめに

月刊自動認識2020年2月号
月刊自動認識2020年2月号

前々回に、旅先で見かけたICタグということで台湾での様子を記述したところ、思いがけず好評であった。RFID/NFCについては日本でも急速に普及が進んでいる状況であるが、海外での活用事例を生活者の観点から見直してみることで、各国により異なる導入プロセス、そこに透けて見える文化的な背景などが見えてくることの面白さがあるのかもしれない。というわけで、今回は年末年始に訪れた香港で発見したRFID/NFCについて紹介を行っていきたい。

駅のポスターにNFCタグ

ポスターと言っても紙媒体ではなく、JCDecaux社による屋外広告の話となるのだが、地下鉄を降りて地上へ移動する道すがら、図1のとおりNFCタグが貼られているのを確認することができた。もちろんQRコードも並んで表示されているが、NFCというキーワードが説明もなくそのまま大きく表示されていたり、屋外広告のバックライトに照らされて内部のNFCタグのアンテナパターンが透けて見えていたり、と日本のこじんまりとしたスマートポスターに比較すると何とも大胆な印象である。しばらく立ち止まって観察していたが、残念ながらNFCタグをスキャンする利用者は、私以外には現れることが無かった。もちろん同広告のQRコードを読み取る利用者もいないし、そもそも誰も広告に振り向いていないのは、何とも残念と言わざるを得ない。

また、通路沿いには何十枚と広告パネルが展開されているが、その全てにNFCタグが内蔵されているわけではなく、そのすべてを確認できたわけではないが、NFCタグが内蔵されていることが確認できたのはわずかに数枚だけてあった。

広告主による広告以外に、JCDecaux社による広告営業の広告パネルも存在していたが、そこにはNFCを活用したスマートポスターに関するオファリングも記載されていた。すなわち、広告主はNFCあり版か無し版かを選択できるようになっているものと予想されるが、残念ながら多くの広告主はNFCオプションを追加していないということである。

悲しい現実ではあるが、ほとんどの通行者が広告パネルを素通り(認知されていない)現場の様子を鑑みるに、致し方なしといったところか。弊社でも経験あるが、スマートポスターサービスのスキャン集計結果が突きつける現実に、顧客と共に頭を抱える状況となっているに違いない。もちろん弊社として見いだした打開策はあるのだか、その話は海外事例の紹介からは外れてくるため、また別の機会に譲りたい。

図1:屋外広告にNFCタグ
図1:屋外広告にNFCタグ

トイレにNFCタグ

数か所の現場で実験を行い、既にそれなりの評価を得られているのが、現場作業員の所在管理におけるウェアラブルRFIDリーダーの活用というアイデアである。これまでの、工場における作業員の所在管理というアプリケーションのセオリーとしては、作業員にUHF帯のICタグを装着させて、管理したいエリアに対してアンテナを取り付ける。どの場所のアンテナで、どの作業員のタグを読み込んだかを一元管理することにより、「今、誰が、どこにいるか」という所在管理情報のリアルタイムな取得を行う方式が主流であったのではないだろうか。

各トイレの出入り口近くに図2のような、コインタイプのNFCタグが取り付けられていた。タグだけではなく、何かしらの説明文も一緒になってはいるが残念ながら中国語であるため、詳細を解読することはできなかった。

図2:トイレにNFCタグ
図2:トイレにNFCタグ

試しにスマートフォンでスキャンしてみると、NFCの読み取り音はするものの、何も起きない。別のアプリでタグのメモリをスキャンしてみると、なるほどNDEFがエンコードされてはいない。何かしらのスマートポスターというわけでは無さそうだが、確かにmifare系のタグではある。掲示内容に関して、中国語を話せる家内に助けを求めると、どうやら清掃作業の実績管理に使用されている模様だ。

以下の内容には推測の部分も含まれるが、清掃員が定期的にトイレを巡回し、その実績記録のためにNFCタグを利用していると思われる。日本のトイレでも、専用用紙にタイムスタンプとサインや印鑑が捺印されるタイプの実績管理表を見掛けることがあるが、それをアプリで実装していると思われる。清掃員は専用アプリがセットアップされたスマートフォンを携行し、各トイレの清掃が完了すると、自身が身につけているタグと、トイレに設置されたタグを合わせ読むことにより、誰が、何時何分に、どこのトイレを清掃したかを記録しているのではないだろうか。

国内でも警備員の巡回実績監視システムなどで似たような事例があるが、トイレで利用しているという話は今のところ聞いたことがない。日本の手書き実績管理表は、清掃実績の管理という目的と、トイレ利用者への「ちゃんと掃除してますよ」的なアピールの部分もフォローできるという点があるが、よくよく考えればトイレ利用者が求めているのは掃除をしてくれた実績ではなく、きれいなトイレそのものなので、わざわざ実績をひけらかす必要が無いのかもしれない。むしろ電子化/システム化することで、清掃業務の実施状況をリアルタイムに共有することができるし、その状況に基づいて各清掃員の配置コントロールが可能になるなど、管理効率は手書き方式に比べると格段に向上するのは間違いない。利用者へのアピールか、管理効率を取るか。このあたり、日本と香港の価値観の違いがにじみ出ているような気がして興味深い。

車両のフロントガラスにICタグ

台湾への訪問時の事例でも紹介したが、香港においても車両のフロントガラスに貼られたUHF帯のICタグを確認することができた。用途はもちろんETCだが、日本の複雑な機構に比較すると遥かにシンプルなシール型が採用されている。フロントガラス以外にも、サイドミラーのケース部分に貼られていることもあった。日本では道路交通法の絡みでフロントガラスへのICタグ貼付は許されないが、サイドミラーであれば問題なさそうなので、こんど自分の車でも試してみたいと思う。方式としてはシンプルだが、貼付方法について利用者に丸投げということはなく、ETCサービスを提供している会社のサイトには、ICタグの購入方法、決済アカウントとの紐づけ方法、車両への貼り方など、細かい手順書が掲載されている。フロントガラスに貼る場合と、サイドミラーに貼る場合では異なる手順書が用意されているなど、非常に細かい記述となっている点は好感が持てる。日本の方式のように技術的な高度性も悪くは無いのだが、非エンジニアであっても、誰でも簡単に自分の車を低コストでETC対応できるようになっているのは、やはり魅力的に映るのだが、どうだろうか。

図3:車両のフロントガラスにICタグ
図3:車両のフロントガラスにICタグ

おわりに

今回は香港旅行の際に見かけたICタグについての紹介を行った、類推の部分もあるが、やはり導入プロセスにおける文化の違いを垣間見られる点が興味深い。次回も更なる事例の紹介を行っていきたい。