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第86回:旅先で見かけるICタグ

はじめに

月刊自動認識2019年12月号
月刊自動認識2019年12月号

前回は、車両のフロントガラスに貼付したUHF帯パッシブのICタグにより、あらゆるサービスにおけるドライブスルー決済を実現するための取り組みについて紹介を行った。用途としては日本のETCが目指すものと方向を同じくしながら、実装のアプローチが大きく異なる点について非常に興味深く観察をおこなうことができた。前回の事例ではブラジルの事例であったが、日本/ブラジル、それ以外の国の様子はどうなっているのだろうか。実は10月下旬に所用で台北を訪れたのだが、旅先で見かけた風景にその答えがあった。同地においてそれ以外にも様々な事例を見かけることができたため、今回は「旅先で見かけるICタグ」として話を進めていきたい。

草臥れたトラックにICタグ

台北市内、ローカルの市場内を散策すると路上に停まったままの1台のトラックが視界に入ってくる。かなり使い古された青色のトラックは何の変哲もなく、この界隈では珍しいものではないのだが、フロントガラスに貼りつけられた1枚のシールだけが何やら新しさを身にまとっている(図1)。

図1:トラックのフロントガラスに取り付けられたICタグ
図1:トラックのフロントガラスに取り付けられたICタグ

以前に台北を訪れた時にもタクシーなどには既に導入が開始されていたが、こんな場末(失礼!)の市場に停車するトラックにまでICタグが貼付されるところまで普及が進んでいるとは驚きである。このICタグの用途については、今さら説明する必要もないかもしれない。前回のブラジルでの事例と同様、日本でいうETC的なソリューションが台北においてもフロントガラスにパッシブのICタグを貼るだけという、簡易的な方式にて実現されているのである。

ETCがもたらすメリットの特徴として、ネットワーク効果というか、利用者が増えるほどに便益が増えるという点が挙げられると考える。一部の人しか導入できないようなツールだと適用範囲が限定され、その効果も限定的なものとなってしまう。新車購入時の無料キャンペーンなどではなく、すでに保有している車両に追加コスト無しで取り付けられるようなETC用ツールとしては、やはり海外で採用されているパッシブシールタイプのほうが好ましいのではないだろうか。台北の道端にたたずむ草臥れたトラックに取り付けられた真新しいICタグを見ながら、そんなことを考えた。

タイム計測にもパッシブタグ

実は今回の台北訪問、私自身の主な目的なマラソン大会への参加であった。毎年、趣味でフルマラソンおよびハーフマラソンへの出走を試みているが、今年は初めての海外マラソンチャレンジとなった。マラソンそのものについての記述は本稿の趣旨と異なるために省略するが、マラソンとICタグと言えば、やはりタイム計測のツールとしての役割が一般的だろうか。筆者が参加する多くのマラソン大会では、ゼッケンに取り付けられたアクティブタグの利用が一般的である。だいたい大会の前日に、記念Tシャツと一緒に配られるゼッケンには、あらかじめICタグが取り付けられている。

読取装置はスタート地点と中間地点、ゴール地点が基本で、大会の規模によって、5kmごとに計測ポイントがあったりすることもある。アクティブタグの場合、やはり調達コストてきに使い捨てというわけにはいかず、ゴール後のタグの回収が必須である。ゴールすると、記録証を受け取る直前あたりに控えたスタッフが懸命のゼッケンからアクティブタグを取り去る。もしゴールできなかった場合は、リタイヤバスに乗る直前に回収担当のスタッフが控えていたり、スタート地点に戻されてから自分で返却に向かう必要がある。

体調を崩したり、あるいは何らかの事情により出走できなかった場合にも、参加者は自主的にタグを返納する必要がある。返納が面倒だからと放置しておくと、後日、事務局から手紙が届いて更に返却を促されるという具合なので、返却する側も回収する側も相当なコストをかけているという実態がある。これ、パッシブで出来たら良いのにと思うのだが、国内ではアクティブタグを使用する比率が高いのではないだろうか。

図2:靴紐にくくりつけるタイプのICタグ
図2:靴紐にくくりつけるタイプのICタグ

さて今回、台北で参加したマラソン大会ではどのようなICタグだったかというと、図2のような外観である。ゼッケンではなく、靴紐への括り付けがガイドされるタイプで、おそらく125Khz帯のパッシブ型ICタグのようだが詳細は未確認だ。大会の特徴としては、参加者数が8,000名に届かないぐらいの小規模かつ、チャリティイベントまで行かないが、競技色の強い大会ではない。

タイム計測のポイントは、スタート、9.5km地点、ゴールの計3か所となっている。レース終了後、ICタグの回収は行われなかった。ゴール地点を通過したあと、いつものレースだと疲れ果てているのに行列に並ばされ、タグの回収やらゼッケンのバーコードを読んで記録証の印刷待ちなど、終わった後も気が抜けない。

今回の台北でのマラソンは、タグの回収はもちろん行われず、記録証の印刷サービスもなし(すべてオンラインで提供される)。ゴールすると、そのまま記念品を受け取って、とくに待たされることもなくスムーズに解散という流れで、これまでの大会の待ち行列は何だったのか、という感じである。

通常、大会に関する情報はupdateふくめてホームページ上から提供されることが多いと思うのだが、今回の大会においてはLINEの活用が目立った。前日、ゼッケン受け取りで会場に入ると、ひとまずLINEのアカウントフォローを促すような動線となっていた。主催者側からのupdateや、参加者が必要な情報についてもLINEのチャットボットを利用したり、と参加者のスキルレベルを気にせずに合理化を志向する部分が個人的には爽快であった。そういえば完走記念メダルを首から下げてもらうサービスすらなく、記念品バッグの中にメダルが入れられているだけだったり、ということもあった。そういう気付きを得られただけでも海外の大会にエントリーした甲斐があったというものである。

スポーツ用品の量販店でもICタグ

私自身のマラソン大会と同じタイミングで家内の台北出張が重なり、必然的に今回は子連れでの海外遠征となった。マラソン終了後、手持無沙汰のタイミングで子どもたちを連れて街へ出たのだが、ちょうど気になっていたDECATHRONの店舗があった。日本でも1店舗だけスタートしているようだが、場所が西宮なのでまだ訪問できていなかったが、いわゆるロープライス志向のスポーツ用品店という紹介の仕方であっているだろうか。様々なメディアで報道されている通り、こちらの商品にはほとんどのアイテムに既に個品レベルでのICタグが取り付けられている。

店内を回り、噂に違わぬ安さに驚きながら、子どものサッカー用品、とくにソックスなどの消耗品をまとめ買いしながらレジへ向かう。当該店舗ではセルフレジは導入されていないものの、POS端末の画面から少し下がった窪んだエリアにリーダーが内蔵されているようだ。とくにバーコードスキャンを行うこともなく、自動的に会計が表示され、会員番号をスキャンしてから決済となる。

あまり時間がなく、レジ以外のRFID関連の装置を観察することが出来なかったが、何の違和感もなく導入されていることが良く分かった。また、商品へのICタグの取り付け方についても、ユニクロやGUのそれとは少し異なるのが興味深い。ユニクロやGUでは、基本的に下げ札や外装に対して取付らえているが、DECATHRONにおける管理では、商品自体に縫い付けられているサイズや品質表示のタグそのものに貼付されているパターンが多かった。海外では商品購入後にユーザにより切り取られることが多いようだが、人によっては切り取らず着用時にICタグごと身に着ける状態になる。ランドリー対応ではないので、何度か選択すれば外れたり壊れたりしそうだが、何とも面白い。(図3-5)

図3:DECATHRONで購入したグッズ
図3:DECATHRONで購入したグッズ
図4:DECATHRONにおけるICタグ取付例①
図4:DECATHRONにおけるICタグ取付例①
図5:DECATHRONにおけるICタグ取付例②
図5:DECATHRONにおけるICタグ取付例②

おわりに

今回は海外旅行の際に見かけたICタグという観点から紹介を行った。日本国内のみならず、海外でもパッシブのICタグが様々な用途で実践的に活用されていること、否、正確には、どちらかというと海外のほうが適用が進んでいることが伝えられたのではないかと思う。次回も新たな事例を紹介していきたい。