RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

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NFCで始める実践RFID
第138回:車検証とICタグ(1)

はじめに

前回は身の回りの身近なアイテム、とくに新規購入した家電製品への様々なメモトリガーとしてのNFCタグの可能性を探った。マニュアルや保証書など購入時に紐づけておきたいメモであったり、使いこなすための自分なりの勘所などの備忘録として活用したり、電子的なものをさっと呼び出せること、そして即座に追記できること。NFCタグ+Notionという組み合わせがもたらす恩恵を享受しながら、相変わらず身の回りのアイテムにICタグを貼り続けている。今回は、たまたま車検のタイミングだったこともあり、車検証にまつわる諸々を記述していきたい。

車検証とICタグ

車検のお知らせを受けたのは年末だったと思うが得意の先延ばしを炸裂させてしまい、ようやく先日に車検を終えたところである。車検が完了して車を返却されたのが週末だった関係で、車検証および車検シールは後日郵送されてくるとの案内を受けて、ディーラーを後にした。そういえば車検証にICタグが内蔵されたという話を耳にしていたので、いったいどんな仕様のタグなのか、とても楽しみにしながら到着を待つこと数日、無事に手元に送られてきた(図1)。

図1:ICタグの貼り付けられた車検証
図1:ICタグの貼り付けられた車検証

聞いていた通りではあるが、ICカードのように内蔵されているわけではなく、紙ベースの車検証にシールタイプのICタグが貼り付けられていることが確認できる。いろいろと注意書きもされているので、わざわざICタグを剥がしてしまうような人はいないのかもしれない。はたして、このICタグの周波数帯は?

すでに周知されている通りNFC、すなわち13.56MHz帯のICタグである。想定されている用途があくまで車検関連なので、ETCを意識したUHF帯である必要はもちろんない。NFCであれば、ひとまずスマートフォンアプリで読み取ってみなければ、ということでNXP TagInfoで読み取ってみた(図2,図3)。

図2:TagInfoでの読み取り結果(1)
図2:TagInfoでの読み取り結果(1)
図3:TagInfoでの読み取り結果(2)
図3:TagInfoでの読み取り結果(2)

ICチップの規格として、マイナンバーカードや運転免許証と同様にType-Bなのかと予想していたが、実際に読み込んでみると、Type-AのDESFireであった。人口と車両台数と、総計してみるとどちらが多いか調べてみたほうがよいのかもしれないが、やはりコストを考えるとFelicaはおろか、Type-Aということになったのだろうか。入札プロセスなど追いかけてみるのも面白いかもしれない。

なぜ車検証にICタグが?という疑問に対しては、これまで紙の車検証で管理できる情報には限界があり、各種の手続きに伴う情報参照のためにわざわざ陸運局へ出向く必要があったが、ICタグの中にそれらの情報を格納することで手続きの簡素化が実現されることなどが挙げられる。また、ICタグを活用できるのは車検関係の業者だけではなく、一般ユーザ向けのアプリケーションも公開されている点が興味深い。スマートフォン用の車検証読み取りが国交省名義で公開されているので、誰でも簡単に車検証のICタグに保管されている情報を参照することができる(図4)。簡単に、とはいえ暗証番号などの制御はされているので、基本的には自分自身のものしか参照できないようにはなっている。

図4:車検証アプリでの読み取り結果
図4:車検証アプリでの読み取り結果

なるほど確かにメリットのある車検証ICタグではあるが、せっかくのICタグを更に活用するすべはないものだろうか。車検証は、基本的には車両に常時携行されるべきものであるのだから、やはりそのまま車両IDデバイスとして活用できるのが望ましいのではないか。自ずと想起されるのは台湾のナンバープレートに埋め込まれたICタグであるが、あちらはNFCではなくUHF帯でETC用途などで利用されていることは以前にも紹介した通りである。車検証にナンバープレートの情報が紐づけられているのであれば、紙の車検証ではなくナンバープレートにICタグを埋め込むことは、やはり導入当時に関係者で議論されたのだろうか。せっかくICタグをつけるのであれば、ダッシュボードにしまい込む車検証ではなくナンバープレートのほうが用途も広がる気がするが、これはまぁ部外者の戯言にすぎない。

とはいえ本稿の趣旨としては、様々なユースケースの可能性を探るべく、やはり実際に車両にICタグを取り付けざるを得ない。まずは貼ってみて、そこから用途の考案と有効性の検証に進めていきたいわけだが、家電製品と違って、行動を走行する車両についてはどこにでも勝手にICタグを貼るというわけにはいかない。

よく言われるのは、フロントガラスに車検シール以外のものを貼ってしまうと道交法違反になる、というものだろうか。この条件をクリアしつつICタグを貼るのであれば、そもそも車検シールにICタグを貼ってみるのはどうか。位置としてはフロントガラスに貼れるので、当初の目的にあった貼り位置といえる。そこで新しい車検シールを手に取ってみると、これが思いのほか小さい、サイズは40x40mm。そもそも表面と裏面に印字されたシールとして提供されるため、ICタグを挟み込む余地もなかった。苦肉の策として、車検シールにはまずNFCタグを貼ることにした(図5)。

UHF帯ICタグをどこに貼ったらよいだろうか。フロントガラスには貼れないがリアガラスであれば、法律的には問題がなさそうである。ふと思い出したが、タクシー車両などは後部座席のドアガラスにいろんなシールをペタペタ貼りまくっている。ということは、こちらも法律的には問題がないのだろう。あとは社内でも比較的車外からの電波を受けやすいダッシュボード近くやミラーの裏側などが考えられる。いろいろ迷った結果、今日のところは、ひとまずナンバープレートに金属対応のシールタグを張ってみることにした(図6)。無地の白いシールなのでICタグの存在感がうまいこと消し去られている。

図5:車検シールにNFCタグ
図5:車検シールにNFCタグ
図6:ナンバープレートにICタグ
図6:ナンバープレートにICタグ

1台の車両にICタグは1枚しか貼ってはいけないというルールは無い(否、そもそも車両にICタグを貼らなければいけないというルールが存在していない)ので、いろんなところに貼ってみるのも面白いが、そのあたりは次回に譲りたい。

おわりに

というわけで、今回は送られてきた車検証に貼られていたICタグについての考察から、車両自体にICタグを貼り付けるまでの作業を行った。次回は、車両のICタグを活用したアプリケーションの考察とテストに進んでいく予定である。