RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

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NFCで始める実践RFID
第129回:スーツケースに取り付けたICタグとComputex 2023

はじめに

前回はコスタリカにおける車両IDとしてのUHFタグの事例を取り上げた。納税証明として発行されるUHF帯のICタグを、日本におけるNFCタグ内蔵の車検証との比較から考えてみたが、いつかその他の国においての同行についても取り上げてみたいと思いつつ、今回はスーツケースに貼ってみた系の話として進めていきたい。

スーツケースに取り付けたICタグ

5月末から6月にかけて、久しぶりに海外出張を行った。普段の出張では、どこへ行くにもリュックひとつで済んでしまうのだが、今回は持ち込まないといけない機材が多かった。そのため不本意ながら、スーツケースを携行することになった。なぜ不本意かというと、管理するべき荷物が増えてしまうことと、飛行機移動の際の預け入れに関する諸々の手間およびタイムラグである。本当は預けたくないけど今回は仕事上しょうがないので、どうせ預けるなら何か面白いことはできないかな、と対応したのが図1である。

図1:スーツケースにICタグ
図1:スーツケースにICタグ

空港で行列に並ばされているときに手持ち無沙汰で思わずICタグをスーツケースに貼ってしまったわけだが、こういうときはやはりアンテナが外部に露出しているパターンが望ましい。パッと見で自分のスーツケースを判別することができるし、(レベルの低い所感で恐縮だが)何より見た目が格好いいではないか。バゲージ・クレームで目立つこと間違いなしである。これだけでも管理要件を満たせているのかもしれないが、せっかくICタグが貼られているのであればRFIDリーダーで探索をしてみたくなるのが自然の摂理ではないだろうか。業界関係者以外が普通にRFIDリーダーを携行する世の中がいつ訪れるか分からないが、せめて持っている自分だけでも利便性を享受できれば、ということで図2のようなアクションに出ることになる。

図2:手荷物受取所にスーツケースを探索
図2:手荷物受取所にスーツケースを探索

説明するまでもなく、帰国後のバゲージ・クレームにて、RFIDハンディリーダーをスーツケース群に向けているシーンである。MANICAモバイルの探索機能を用いて、自分のスーツケースを検出するとアプリが鳴動するようになっている。レーンを流れてくるスーツケースと自分の立ち位置との距離は、せいぜい1-2mであろうか。もちろん検出精度には何の問題もない。パッと見だけで自分の荷物であることが分かりやすい場合もあるだろうし、似たような荷物が続いて出てくることもあるだろう。長旅を終えたばかりで、あるいは時差ボケに悩まされながら朦朧と自身の荷物をピックアップするようなシーンにおいては、何も考えずに該当品を探し当てて鳴動してくれる仕組みは如何にもストレスフリーと言えよう。

とても便利だが、今回はじめて実践して分かったことがある。それは「目立ちすぎて小っ恥ずかしい」ということだ。流れ来る荷物に仁王立ちで電波を照射し続ける姿は、2023年時点では誰の目にも異様に映るらしく、この人は何をしているんだろうという視線を痛いほど浴びることになった。人に見られることに喜びを覚えることもないため、かといってそれなりに歳を重ねて図々しくもなり、そこまで人の目を気になるものでもないので、恥ずかしいのは最初のうちだけであった。今回はいかにもガンタイプな見た目の機種だったが、もう少しマイルドな見た目のリーダーにすれば良かったかもしれない。怪しい見た目の私に、果敢に話しかけてくるかたも少なくはなく、いったい何をしているのか?という問いかけを受けて一連のRFIDトークをこなしくていくことで、少なくとも荷物が来るまでの間の暇つぶしには充分になったことも付け加えておこう。ちなみに、今回は送信出力が250mWの機種を日本への帰国時に使用しているため、おそらく電波法上の問題はないと思われる。

本来であれば空港手荷物の管理はRFIDの先進的な導入事例であったはずだが、なかなか普及していかないのは何故だろうか。ロストバゲージの防止や、自分の荷物がレーンに入ったことを検出してメッセージが送信される仕組みなど今となっては何の新しさもないが、普及しないのでは何の意味もない。せめて自身はユースケースを体感して、あるいはデモンストレーションを行うことで、少しでも利便性をアピールすることができればと思う次第である。

Computex 2023雑感

さて、今回の出張先は実は台北であった。以前にマラソンで訪れた際の話は、本稿でも取り上げたことがあったかと思う。あれ以来なので、コロナ明け数年ぶりの渡航となったが、その目的は何かというとInnoVEX2023への出展であった。InnoVEXはComputex併催のイベントだが、こちらに沖縄県ブースメンバーの一員としてRFIDソリューションの展示をお手伝いさせていただいた形である。8年前にも、同じ座組でComputexのほうに出展したことを割りと最近のように思い出すが、時の経つのは早いものだ。

その分野の展示会としては比較的メジャーなComputexであるが、ここにおけるRFIDの存在感はどうだっただろうか。残念ながら、大々的にRFID関連の展示を行っているブースは存在していなかった。ハンディスキャナーのメーカーが、業務用Androidターミナルのオプション機能としてハンディリーダーを展示しているほか、タグに特化したブースが1か所あったくらいあろうか。IoTだったり自動認識関連だと、UWBまで取り込んだ所在管理の仕組みがあったりはしたが、パッシブRFIDの存在感は残念ながらそこまで目立つものではなかった。

現地の有識者に話を聞いた感じでは、RFID自体は決してマイナーな技術ではなく、それこそETCにも採用されているし台湾国内のRFIDベンダーも海外に向けては存在感があるとのことであった。一方で、国内のユーザ企業において導入が進んでいるかというと残念ながらそのような事例はそこまで多くないという感想が多い。ETCのように期待される機能が明確で、複雑な管理アプリケーションを必要としない領域はシンプルに導入が進みながら、特に中小零細企業の在庫管理、備品管理における採用を考えたときに、ICタグと読み取り機を有機的に社内業務に適用するためのアプリケーションが不足しているというか、そのような領域でどのように使ったらいいか想像がつかない、という声も聞かれるほどであった。

今回もExcelベースでRFIDを活用できるツールや、スマホ+クラウドで手軽にRFIDを始めるMANICAモバイルなどを紹介してきたが、それらのソリューションを活用して小規模ながら的確な成功事例が日本国内では多く展開されている説明には、台湾ベンダーも興味を持っているようであった。

おわりに

今回は久しぶりの海外出張に伴ってスーツケースに取り付けたICタグの活用、そして出張先におけるRFIDの導入に関する話題などをお届けした。バゲージ・クレームにRFIDハンディリーダーを持って立つシーンは恥ずかしくも愉快な経験となったので、是非今後も継続していきたい。そして自分と同じような方が現れるのを説に願うのみである。次回も新たなユースケースを開発していく予定である。