RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

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NFCで始める実践RFID
第125回:旅行用のトラベルケースにNFCタグ

はじめに

月刊自動認識2023年3月号
月刊自動認識2023年3月号

例年おそろしい勢いで進行する年末から年度末であるが、本年も御多分に漏れず同時並行する大量のプロジェクトに押し流されそうになっている今日このごろである。先月も触れたところではあるが、RFID/NFCを導入する具体的なニーズの高まりを強く感じる一方で、デリバリー面の効率が足かせになっているような部分もあるので、更に試行錯誤していきたいところである。さて、今月は久しぶりに海外事例に目を向けてみたい。

旅行用のトラベルケースにNFCタグ

NFC関連のニュースを取り扱っているNFCworld(https://www.nfcw.com/)を流し読みしていたところ、興味深い記事を発見した。タイトルは、”Qatar Airways rolls out reusable NFC bag tags for contactless luggage check-in”というものであるが、カタール航空が再利用可能なNFCバッグタグを利用して、預け入れ荷物の非接触チェックインを実現、という感じだろうか。NFCを利用した旅客のチェックインについては、随分前からNFCが採用されており当然のことながら非接触のチェックインが実現されているが、荷物の非接触チェックインが今更ニュースになるのは、いったいどのような理由によるものだろうか。こちらの記事を掘り下げて紹介してみたい。

まず再利用可能なNFCバッグタグとは、いったいどのようなものだろうか。調べてみると、オランダのBagtag社により製造/販売されている図1のような見た目のデバイスということが分かった。なるほど、見た目から電子ペーパーが搭載された書き換え可能な表示デバイス(電子ペーパー)の通信I/FにNFCを採用しているということが想像できる。使い勝手としては、専用のアプリを用いて登場する飛行機のフライト情報とバッグタグと紐付けて、あとはトラベルケースに取り付けるだけ、という簡単さである(図2,図3)。

図1:再利用可能なNFCバッグタグ(https://bagtag.com/より引用)
図1:再利用可能なNFCバッグタグ(https://bagtag.com/より引用)
図2:スマートフォンでチェックイン情報を書込み(https://bagtag.com/より引用)
図2:スマートフォンでチェックイン情報を書込み(https://bagtag.com/より引用)
図3:トラベルケースに取り付けたところ(https://bagtag.com/より引用)
図3:トラベルケースに取り付けたところ(https://bagtag.com/より引用)

簡単さは理解できたが、どのあたりが便利なのだろうか。基本的に手荷物は預け入れず機内へ持ち込むというスタンスの著者にとっては、正直ピンと来ない部分もあり、こちらもあらためて確認してみた。通常、預け入れ荷物がない場合は、今どきであれば空港到着後に各航空会社にカウンターへ立ち寄る必要はなく、そのまま保安検査場へ向かいNFCあるいはQRコードによるチェックインを行う形が普通かと思う。急いでいるときにカウンターの待ち行列に並ぶ必要が無いのは大変ありがたい。しかし預け入れ荷物がある場合は、どうしてもカウンターへ並ばないといけない。カウンターでは、航空券の確認、預け入れ荷物の計量、荷物に取り付けるバッグタグの出力、受け取ったタグの取付、を経てようやく預け入れが完了する。加えて、到着地で荷物の受け取りにかかる時間を考慮すると一連のフローに非合理性やストレスを感じざるを得ない。

もしNFCバッグタグがあれば、空港へ向かう前に自宅でスマートフォンのアプリからチェックイン情報を書き込んでおくだけなので、空港到着後も長い待ち行列、わざわざ紙のタグを印刷して取り付ける作業(そして移動後にそれを取り外す作業)が省略されることは、頻繁に空港を利用する人たちにとってはたしかに大きなベネフィットを提供するものになりそうである。Bagtag社が謳っているその他のメリットのなかで、ロストバゲージの低減というのがある。電子ペーパーに行き先地とバーコードが表示されているので、それを利用した手荷物ハンドリングの精度向上が意図かと思うが、実はUHFタグも埋め込まれていて目視に頼らない検品が実装されていたりすれば更に素晴らしいソリューションになるのではないかと妄想を掻き立てる。

このバッグタグだが、実は第2世代の製品となっている。第1世代でも電子ペーパーを搭載していたものの、通信I/FとしてはNFCではなくBluetoothが採用されている。スマートフォンアプリからのチェックイン情報という観点では、たしかにBlueoothでも問題ないだろうし、紛失防止や所在管理ソリューションへの拡張性を考えると、NFCよりBluetoothのほうが適正がありそうな気もする。それでも第2世代でNFCが採用されたのは、バッテリーレスであることを優先した結果であると思われる。利用者に定期的なバッテリー交換を促す必要もなく、バッテリーに起因する様々な障害発生への対応なども考慮すると、特にコンシューマ製品におけるバッテリーレスの意義は大きいのだろう。

気になる価格はというと、一個あたり66ユーロ。だいたい1万円弱で手に入れられるこの価値を、高いと見るか安いと見るか。残念ながら日本国内の空港や航空会社では利用できる場所がないようだが、対応している国に旅行することがあれば個人的には是非利用してみたい製品である。Webサイトはとてもキレイにまとめられているが、やはり実際に使用してみないとメリットや考慮点を実感することができないだろうし、あらたな発見もあると思う。

それにしても、よくよく考えるとNFC+電子ペーパーであれば日本国内でも様々な事例が存在している分野である。棚札だったり、回転寿司の会計札だったり、著名な事例だけでも枚挙に暇がないところではあるが、コンシューマ向けの製品への展開となると全く思いつかない。やはりアイデア次第で様々な展開ができるRFID/NFC、失敗したとしても実際に形にしてみることがやはり大切なのだろう。

おわりに

今回はトラベルケースに取り付けるNFCタグを取り上げた。ガラパゴスだなんだと騒いでいた頃が懐かしいと思えるぐらいに、諸外国に比べてすっかり低空飛行が続いている昨今の国内事情であるが、悲観していてもしょうがない。コロナも落ち着きつつある昨今、旅行関係のユースケースは今後さらに広がっていくのかもしれない。そろそろ実際に海外へ赴いて、そのプロセスや渡航先で新たなユースケースを開拓していきたいところである。