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第122回:学習プロセスの効率化にNFCタグ

はじめに

月刊自動認識2022年12月号
月刊自動認識2022年12月号

前回は、とても基本的な組み合わせではあるが物理的に出力された子どもたちの写真にNFCタグを埋め込む施策について紹介を行った。日々のライフログを蓄積しつづけるデジタルアーカイブを、現実世界とリンクさせる形でリアルとバーチャル、アトムとビットを有機的に連動させることができる点は今さら感がありつつも、まだまだ実践されているケースは少ないのではないだろうか。写真を出力する手間がネックになっていた部分を補うサービスが登場していることなども含め、今こそあらためて紹介したいユースケースである。さて、今回は再びサッカーネタとなってしまうが最後までお付き合いいただきたい。

学習プロセスの効率化にNFCタグ

相変わらずサッカーネタの多い本稿だが、実は2022年の10月から8日間に渡る講習を受講していた。何の講習かというと、サッカーのC級指導者ライセンスを取得するための講習会である。子どもたちが参加している小学校のサッカー部に、保護者として帯同する活動も3年めを迎え、古参とまでは言わないがそれなりの参加実績となっていることや、いちおうはサッカー経験者であることなどから、選手たちに指導を行う立場を努めている。日々のトレーニングや練習試合において子どもたちへの指導を行っているわけだが、もちろん私自身に指導者経験はない。指導者経験どころか、プレイヤーとしての経験も中途半端なので常々、何を根拠に指導を行っていくべきかといった根本的な部分に頭を悩ませていた。目に見える現象としては、チームに帯同して技術的なあるいは戦術的なフィードバックを行うことはできなくもないし、細かい指導がなくても子どもたちは自律的に動いてサッカーの試合は成り立ってしまう。対戦相手のレベルによって、勝つこともあれば負けることもあるが、帯同して子どもたちを勇気づける、励ます声掛けだけしていれば、それなりに指導っぽく見えてしまうし、そのような活動に自己満足してしまう部分もあった。

ただ、そのような活動も3年目となると、目の前の子どもたちの成長に自らの指導が貢献できていない現実から目を背けるのが難しくなってくる。たとえば地域リーグに参戦しているチーム間での比較をするとわかりやすいのだが、自チームも他チームもそれほどメンバー構成に変更がないなかで、低学年のときには勝てていた相手チームに、高学年に進んだら勝てなくなってくるという現象がある。4年生の時点では勝てていたチームに対して、6年生になってから勝てなくなる。選手個人の発育発達も影響はあるが、あきらかにチーム戦術の理解や浸透による戦力差が生まれている場合には、その責が指導者にあることは間違いない。「他のチームは頑張って練習しているのに、あなたたちは努力が足りないから成長できていない。もっと頑張るべきだ。」というのは、一見指導のように思えるが頑張れだけでは成長にも限界がある。きっちりと現状の分析を行い、何が出来ていて何が出来ていないのか。出来ていないことを出来るようになるためには、どのような視点やトレーニングが必要になるのか。継続的な改善によって目指すべきチームの姿へ落とし込んでいく具体的なコーチングを、チーム全体や個々の選手に対して行っていく指導力が求めらている。

これまで指導の真似事は出来ていたかもしれないが、これでは子どもたちの成長を加速することはできないし、そもそも正しいサッカーの構造を教えることもできない。知っておくべきことを教えることができないのは、指導どころか害悪になってしまうのではないか。そのような経緯から、本質的な指導は高度に専門的な熟練が必要であることに気がついていよいよ本格的な指導者講習を受講するに至ったというわけである。

前段が長くなり過ぎたが、つまりこの歳にして未経験の分野であるサッカー指導者という領域に関する学習をスタートすることになったときに、NFCを活用してどのように習得を加速することができるか、という話になる。では、そもそも指導者講習会とはどのような内容なのか。サッカーの指導方法について学習するわけだが、そもそもサッカーという競技の成り立ちや構造をテクニックや戦術の観点から講義の中で網羅しつつ、実技の中で実践を伴うかたちで落とし込んでいく。実技があるとは聞いていたが、思ったより走らされる内容で老体にムチを打ちながら何とか乗り切った。プレイヤーとして技術や戦術を理解し身につけたあとは、それを指導するために必要な分析の視点やコーチングの手法についての講義や、実際に指導案を作成して指導実践を行う。このような内容をスパイラルに8日間で回してくイメージだが、普段から関わっているはずのサッカーについて、いかに自分の見識が不足していたかを思い知らされる結果となった。実技やレポート、そして筆記試験まで、網羅的な知識と実践が求められることに加えて、8日間の講習という限られた時間のなかで効率的な習得が求められる状況がある。

学習するべき内容は、図1のような教本にエッセンスがまとめられているのだが、8日で吸収して実践するには内容が網羅的すぎる。講義の中でも重要なポイントに絞りこんだ形で深い解説が行われるので、自習の時間においてはテキスト全体ではなく、必要な部分にフォーカスしたまとめ資料が必要になる。また、プレーの構成要素として、たとえばシュートという行為を分解して、どの部分ができていないか、という分析を行うような内容があるが、これはどう考えても文章だけで理解できるものではない。配布されたテキストを全て読み直すような学習方法では、限られた時間における効率性にも欠けるし、動画コンテンツなくしては正しい復習も行うことができない。

これを補完する方法としては、動画コンテンツも含んだ別のまとめノートを電子的に作成しておくわけだが、これもただ蓄積するだけでは必要な情報へのアクセスすることが難しくなってくる。そこで、テキストの各箇所にNFCタグを貼付しておいてスマートフォンでスキャンすると、まとめノートの当該部分へシームレスにアクセスすることができるという仕組みを実装した。テキストの目次に代表されるような、全体構造を把握する視点の重要性を担保しながら、都度確認する必要のある細かい情報へのショートカットを用意できたことは思った以上に効果的であった。その成果もあり、プレイヤーとしては素人同然の私でも規定の講習期間内に無事に修了することができた。ある程度見識がある分野だったり、ベースになる知識があったうえで更に深堀りする方向であればここまでの工夫はいらないのかもしれないが、未経験の分野を効率的な学習する方法としては非常に有益だったのではないかと考えている。

図1:教本に貼付したNFCタグ①
図1:教本に貼付したNFCタグ①
図2:教本に貼付したNFCタグ②
図2:教本に貼付したNFCタグ②

おわりに

まとめノートの内容についてはJFA(日本サッカー協会)の方針により本稿ふくめ外部公開することができないが、今後の指導活動において何度も振り返ったり、またそこに内容を追加していくものになるはずである。いまは指導教本からのリンクのみだが、たとえば指導現場における様々トレーニング用具から、練習メニューや抑えるべきポイントを参照できる日も近い。今後も継続的に洗練させていきたテーマではあるが、次回はまた別のテーマでユースケースの探索を行っていく予定である。