RFIDパッケージ・NFCアプリの導入事例を紹介します。

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NFCで始める実践RFID
第121回:思い出の写真にNFCタグ

はじめに

月刊自動認識2022年11月号
月刊自動認識2022年11月号

前回は応援用タオルマフラーにNFCタグ、ということで海外事例の紹介を行った。サッカー観戦時に身につけるグッズにNFCタグを内蔵することで、IDデバイスすなわち入場チケットとして活用したり、関連性の強いコンテンツへのショートカットとして活用したり、いかにも王道的なユースケースの破壊力を目の当たりにすることができた。さて、今回も新たな用途開発に挑んでいきたい。

思い出の写真にNFCタグ

サッカーネタ含め、本稿に散々登場している我が家の子どもたちであるが、気がつけば13歳と10歳。中学1年生と小学4年生である。あとから振り返ることがあるのかどうか、そこに価値を感じることができるか分からないが、撮らないことには何の機会も見込めないため、その質はともかくなるべく多くの写真をスマートフォンで撮るようにしてはいる。子どもたちだけでなく、起業以来いそがしい日々が続いている家内をふくめ、家族や友人たちとの日常を記録しておくことは、SNSへの公開などとは関係なく大切なことのような気がしてきている。かつてはその時々の盛り上がりを写真や動画とともにリアルタイムにSNSに公開して、いいね!などの反応を獲得することから自己の承認欲求を満たすようなこともしていたが、否、いまでもたまにおこなってはいるのだが、写真や動画を撮っておくことの価値はもう少し深いところにあることに気づきつつある今日このごろである。

同世代の写真ではなく、はるか昔の古写真をかきあつめて歴史的な価値を持つデジタルアーカイブ化することをライフワークとしている知人がいる。その偉業が目指すビジョンには大いなる敬意を抱きつつ、もう少し小さいレベルで地道にライフログとして写真を記録していることに価値を感じる。積み重ねた時間とともに蓄積される写真の数だけ価値が深まるアーカイブであるが、わかりやすい活用方法はSNSやフォトストレージサービスが提供している「思い出」のリマインド機能ではないだろうか。SNSアプリを開くと、昨年の本日、一昨年の本日とアカウント開設以来の投稿から思い出を表示してくれる機能がある。自分自身の過去の投稿を振り返ることは非常に少ないのだが(コメントにすら返信しきれていない)、このようなリマインドをきっかけに小さかった子どもの写真や、懐かしい人との思い出など楽しかったこと、苦しかったことを思い出すことができる。SNS提供側の思うツボかもしれないが、アプリの利用時間は伸びるし、さらに投稿を促すトリガーにもなりえる面白い機能かと思う。

一方で、写真は全てデジタルな状態のままで良いのか、という観点もある。前述のような気の利いたリマインドサービスの存在は頼もしいものであるが、SNSに投稿した写真なんて撮りためていくアーカイブの全体量からするとほんの一握りになってしまう。それ以外の画像は、能動的に閲覧を試みない限りは発掘されることなく、タンスの肥やしならぬストレージの肥やしとなってしまう。アルバム、というとかつてはプリントされた写真を大量に貼り込んでいく物理的なものを指すことが多かったが、一覧として可視化された状態を思考するのであれば、やはり物理的なアルバムすなわち写真集を志向する他なくなってしまう。たまにアルバムを手にとって思い出に浸るのは、とくに久しぶりに会った友人との会話を大いに盛り上げる効果がありそうだが、しかしそのためだけに大量の写真を印刷してアルバムに溜め込んでいく、そしてアルバムの置き場などを考えると、すべての写真を物理的に保管することもまた悩ましい選択肢となってくる。

デジタルかリアルか、どちらにもメリットと懸念事項があることは言うまでなく、本稿での関心がいきつくところは、やはり両者を融合するRFID/NFCの活用法というところになってくる。図1は、我が家のダイニングルームの壁を写したものである。壁にはいくつかの額縁が飾られているのだが、これらは全て家内が作成しているものである。額縁には自作の刺繍だったり、デザイン性の高い生地だったり、子どもが描いた絵の一部だったり、そして思い出の写真が飾られている。なんてことのない写真も、額縁にいれてこのようにディスプレイすると何とも見栄えのするものである。そして、すべてを写真にしないところも嫌らしさがなく好感がもてる。ここまで来ると多くの読者が想像されるかと思うが、写真の裏側にはNFCタグが貼られている。NFCタグにはフォトストレージへのリンクが埋め込まれており、写真にスマートフォンを近づけると、自動的にフォトスレージのサイト上での同写真を開くことができる(図2)。

図1:額縁に収められた写真にNFCタグ
図1:額縁に収められた写真にNFCタグ
図2:リンクされたフォトストレージの画面
図2:リンクされたフォトストレージの画面

SNSではなく自分たちしか見ることのできない領域にしているため、人の目を気にしない単純な記録コメントになっている。余談となるが、自分しか読まない文章を若いうちにたくさん書いておくことが、後々の人生においてとても大切な資産となる気がする。小学校の作文から始まって、ビジネスドキュメントはもちろんだが、SNSやBlogなど人の目にさらすことが前提の場合、そもそもの成約が多すぎて筆が遅くなるだけでなく表現の幅も狭まってしまうのではないだろうか。今回もプライベートなフォトストレージなのでコメントも適当につけることができて、だからこそ適切な表現になっていると思う。そして、あとからもコメントを追記できるため、数年後に見返したときに当時とは異なる気持ちを書き連ねることもできる。

余談が長くなったが要するにNFCタグを活用することで、目の前の物理的な写真から画面の向こう側の世界にショートカットすることができるようになっている。フォトストレージ上の当該写真からは、同じ時期の他の写真や同じ撮影場所で時間をまたがった写真を確認できたりもするし、当時のコメントを参照したり、新たにコメントを追記したりもできる。

自宅のインテリアも兼ねて、とても有益な使いかたであるが、壁にかけられた写真がいつまでも同じものだと飽きてしまう。かといって、自分で頻繁に写真を印刷するのも何かと面倒である。そんなときに愛用しているのが、毎月、きめられた枚数まで無料で写真を印刷して郵送で自宅へ届けてくれるサービスである。メジャーどころからスタートアップまで、様々な会社が類似のサービスを提供しているが、アプリから好きな画像を選択するだけなので何とも手軽である。写真が届いたら、URLをエンコードしたNFCタグを貼って額縁の写真を入れ替えれば作業完了。これなら毎月飽きることなく思い出の写真をリアルにもデジタルにも楽しむことができるようになる。

おわりに

今回はリアルな写真にNFCタグを貼って、デジタルアーカイブへのショートカットを埋め込む事例を紹介した。NFCタグを通じて、時空間を飛び越えてコンテンツを楽しむイメージは他の領域でも様々なユースケースの開発に役立つものだと考えている。次回も新たな活用事例を模索していきたい。